2011
Moorstone Placeの始まり
完璧な素材より、その日の素材と正直に向き合うこと。
Haruki Nishimuraがこの場所に厨房を開いたのは2011年の秋でした。それ以前の12年間、彼はパリの16区にある小さなビストロと、京都の懐石料理店で修業を重ねていました。フランスで学んだのは食材の扱い方ではなく、時間の使い方だったと彼は言います。玉ねぎのコンフィに4時間かける理由を、言葉ではなく鍋の音で教えてくれたシェフがいた。その経験が、今のMoorstone Placeの調理哲学の根幹にあります。
開業当初、メニューは6皿だけでした。食材の仕入れ先も限られていて、最初の冬は根室の魚が届かず、近所のスーパーで買った鯖で前菜を作ったこともあります。その皿が、今でも記憶に残る一品だったと常連客は言います。完璧な素材より、その日の素材と正直に向き合うこと。それがMoorstone Placeの料理の出発点です。2014年に清水農園との契約が始まり、2016年に根室の漁師・大野さんとの直送ルートが確立されて、ようやく今の形に近づきました。
現在は8席のダイニングと、奥に10名まで使える個室を備えています。スタッフは厨房2名、ホール2名の計4名。小さいままでいることは、意図的な選択です。席数を増やせば回転が上がる。でも、それをしたくない理由が厨房にはあります。一皿ずつ、その日の状態を確認しながら出すためには、今の規模が限界です。夏のテラス席は2019年に石畳を敷き直してから始めました。庭の緑が一番濃くなる7月と8月が、Nishimuraが最も好きな季節です。
Haruki Nishimuraは1974年、長野県松本市生まれ。辻調理師専門学校を卒業後、パリ16区のビストロ「Chez Marguerite」で5年間、続いて京都の懐石料理店「木の芽」で7年間修業を積んだ。2011年秋にMoorstone Placeを開業。フランスと日本の調理哲学を意識的に混在させず、それぞれの技法が必要な場面でだけ使うという姿勢を貫く。休日は長野の山を歩くことが多く、山で見つけた野草を厨房に持ち帰ることもある。「料理は素材の時間を借りる行為だ」というのが、彼の口癖のひとつ。